市場規模とは? 調べ方や算出方法、業界別の参考サイトを紹介
スタートアップや新規事業を立ち上げる際、今から携わろうとしているビジネスの成長可能性や位置付けをあらかじめ把握するのは非常に重要です。
そこで抑えるべきなのが、その業界の市場規模。正確な市場規模を知ることで、自社の立ち位置を明確にし、持続的な成長戦略を考えることができます。
本記事では今回は100名以上のスタートアップ立ち上げ支援を行ってきたスタートアップスタジオ「norosi(ノロシ)」の知見をもとに、市場規模の定義や把握するメリット、具体的な調べ方や推定方法を解説します。
この記事の目次
起業やスタートアップビジネスに関心がある方はnorosiへ
市場規模とは
市場規模は、特定の業界や事業分野における市場の大きさを表します。
一般的にはその業界内の取引額や販売数量、業界全体の年間売上高がその業界の市場規模です。
市場規模は、企業がビジネス戦略を策定する際に重要な指標です。
業界全体の規模を把握することで、自社の業界内でのシェアや市場の潜在的な成長可能性を知り、どのセグメントに注力すべきかを判断できます。
また新規事業立ち上げを行う企業やスタートアップが市場規模を見積もる際によく活用する指標として、TAM、SAM、SOMという3つの指標がよく使われます。
新規事業で役立つTAM・SAM・SOMとは
TAM、SAM、SOMはそれぞれ下記の意味があります。
・TAM(Total Addressable Market):ある事業が獲得できる理論上の最大市場規模
・SAM(Serviceable Available Market):TAMのうち、実際に顧客としてアプローチできる市場規模
・SOM(Serviceable Obtainable Market):SAMのうち、ある事業が現実的に獲得可能な市場シェア
TAMは市場の全体を理解するための指標、SAMは地理的な制約や顧客の特定のニーズを考慮した、より細分化された市場を把握する指標です。
そしてSOMは上記の条件に加え、広告費や人件費などの自社のリソースを考慮した現実的な目標となります。
新規事業を開発する際は、まずTAMを評価し、次にSAMを絞り込み、最終的にSOMを目標とすることで、より現実的なビジネス計画を策定できます。
今後norosi pressでは、TAM、SAM、SOMについてもまとめたいと思いますのでしばらくお待ちください。
市場規模を把握するメリット
市場規模や成長率、それに対する自社のシェアを把握することは、事業戦略を策定する上で大きなメリットがあります。
ここでは市場規模を把握するメリットを解説します。
事業の将来性を予測できる
市場規模の把握は、その事業ドメインの将来性を予測する上で重要な要素です。
たとえば、あるビジネスアイデアを思いついたときに、そのビジネスの市場規模を調べることでそのビジネスの成長性を測ることができます。
また、数年前にAI市場の成長性を見越し、AI事業への投資をしてきたIT企業の中には、現在の市場でリーダーとしての地位を築いたところもあります。
反対に、ビジネスを行う際に市場規模やトレンドを無視すると、現実的ではない成長戦略を描いてしまうリスクが高まります。
市場の将来性を見極め、適切な戦略を立案することで、企業は持続的な競争優位性を確保できるのです。
既存事業の改善や見直しに活用できる
市場規模の把握は、既存事業の改善や見直しにおいても有効です。
たとえば、市場全体の成長率に対して自社の売上がどう推移しているか見ることで、現在のビジネスモデルや製品が市場に受け入れられているかを評価できます。
もし、あるサービスを提供している企業のシェアが市場全体の成長率に比べて低調な場合、サービスの方向転換やマーケティング戦略の再検討が必要でしょう。
あるいは、市場規模を調べた結果「ある市場に対して、獲得可能な顧客を獲得しきってしまった」という場合は、新たな市場の開拓にリソースを振り分けるべきです。
このように、市場の拡大や縮小のトレンドを知り、そこにおける自社のシェアに応じて事業戦略を適切に見直すことで、持続的な事業成長に繋がります。
一般消費者の理解につながる
自社に関係する市場規模だけではなく、様々な市場規模を知ることで、一般消費者の生活の理解にもつながります。
例えば2000年〜2010年代にかけて、スマートフォン市場は大きく拡大しました。これによりサブスクリプションモデルやSNSが台頭し、レンタルDVDショップや新聞・紙媒体の雑誌など、一見するとスマートフォンとは関係のない市場にも大きな影響を及ぼしました。
一方、このような市場動向を把握し、いち早くスマホアプリやサブスクリプションビジネスを開発したり、SNSでの発信を強化したりした企業は業績を堅調に伸ばしています。
このように市場規模の把握を通じて消費者ニーズへのトレンドを掴むことで、より良い製品やサービスを提供できます。
市場規模の調べ方
ここでは市場規模の調べ方を解説します。
市場規模を調べる際におすすめのデータやサイトも紹介するので、合わせて参考にしてみてください。
官公庁が公表する調査データから調べる
市場規模を調べる方法として、官公庁が公表する調査データの利用があります。
官公庁では様々な業界のデータを収集・分析して無料公開しているため、信頼性の高い情報に低コストでアクセスできる点が魅力です。
政府が出している統計情報を一括して検索・閲覧できるプラットフォーム「e-stat」を活用することで、自分が知りたいデータを探しやすくなるでしょう。
市場規模を調べる際は、まずはこの方法を試すことをおすすめします。
官公庁による市場規模に関する調査データ
ここでは日本の市場に関するデータを公表している官公庁と、その統計データの出所を紹介します。
最新のデータが知りたい方は、この表を元に最新情報を調べましょう。
業界名 | 調査データを報告している官公庁 | 調査書の名称 |
製造業 | 経済産業省 | 工業統計調査 |
金融業・保険業 | 財務省 | 法人企業統計調査 |
IT業界 | 総務省 | 情報通信白書 |
環境業界 | 環境省 | 環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書 |
農林水産業 | 農林水産省 | 農業経営統計調査 |
建設業 | 国土交通省 | 建設工事受注動態統計調査 |
観光業 | 官公庁 | 観光白書 |
労働市場 | 厚生労働省 | 労働力調査/一般職業紹介状況 |
エネルギー業界 | 資源エネルギー庁 | エネルギー白書 |
業界団体が公表する調査データから調べる
業界団体が発表する調査データも、市場規模を把握する際に有効です。
特定の業界に深く精通している団体が多く、よりセグメントの細かい市場における最新の動向が調べられることが多いです。
また官公庁のデータに比べると調査結果が公表されるスピードが早く、よりタイムリーな情報が得られる点もメリットです。
市場規模に関するデータを公表している業界団体
ここでは日本の市場規模に関するデータを公表している主な業界団体を紹介します。
業界名 | 団体名 | サイトURL |
自動車業界 | 日本自動車工業会 | https://www.jama.or.jp/ |
建設業界 | 日本建設業連合会 | www.nikkenren.com |
不動産業界 | 全国宅地建物取引業協会連合会 | www.zentaku.or.jp |
電気機器業界 | 日本電機工業会 | www.jema-net.or.jp |
食品業界 | 日本食品産業協議会 | www.shokusan.or.jp |
繊維業界 | 日本繊維産業連盟 | www.jtf-net.com |
化学業界 | 日本化学工業協会 | https://www.nikkakyo.org/ |
金融業界 | 全国銀行協会 | www.zenginkyo.or.jp |
IT業界 | 日本情報経済社会推進協会 | https://www.jipdec.or.jp/ |
派遣業界 | 日本人材派遣業界 | https://www.jassa.or.jp/ |
民間企業が公表する調査データから調べる
さらに詳しい市場情報が必要な場合や、官公庁や業界団体のデータではカバーしきれないニッチな市場を調べたい場合には、民間企業の調査データを利用しましょう。
民間の調査会社は、特定の市場に特化したレポートを販売しています。また調査会社によっては、顧客のニーズに合わせて独自調査を行ってくれるところもあります。
民間企業のデータは費用がかかることが多いですが、より具体的で最新の情報を得られます。
多くの調査会社では、販売している調査レポートの一部をプレスリリースなどで無料公開しています。
無料部分だけでも市場の概況を把握するのに役立つため、ぜひチェックしてみてください。
市場規模に関するデータを公表している民間の調査会社
ここでは市場規模に関するデータを公表している主な調査会社を紹介します。
会社名 | サイトURL | 概要 |
矢野経済研究所 | www.yano.co.jp | 様々な業界の市場調査レポートを提供 |
富士経済グループ | www.fuji-keizai.co.jp | 消費財から産業財までの市場調査を行う |
日経BPコンサルティング | consult.nikkeibp.co.jp | 技術やビジネストレンドに関する調査が強み |
ミック経済研究所(デロイト トーマツグループ) | https://mic-r.co.jp/ | ICT関連の調査に強みを持つ |
NTTデータ経営研究所 | https://www.nttdata-strategy.com/ | ビジネスとITを中心に幅広い調査を実施 |
クロス・マーケティング | https://www.cross-m.co.jp/ | 一般消費者の動向を含めた幅広い分野を調査 |
市場規模を推定する方法
自社のビジネスの市場規模にあたる調査が見つからない場合、既存の情報を組み合わせて市場規模を推定する方法があります。
ここでは、具体例を挙げながら市場規模を算出する方法を解説します。
企業の売上高と業界シェアから算出する
企業(供給)側から市場規模を求める方法です。業界内の企業の年間売上高と業界シェア率がわかる場合に利用しましょう。
計算式は以下のとおりです。
売上高 ÷ 業界シェア率 = 市場規模
もし、あなたの取り組むビジネスの競合で、「売上高」と「業界シェア率」を公表している企業がいる場合、この数式を当てはめることで市場規模を導き出すことができます。
例えば、B社の年間売上高が80億円、業界シェア率が20%の場合、市場規模は80億円 ÷ 0.2 = 400億円と推測できます。
また、企業数と1社当たりの平均売上高がわかれば、次の計算式で推測可能です。
企業数 × 平均売上高 = 市場規模
例えば、参入企業が500社で、1社当たりの平均売上高が0.8億(8,000万)円の場合、500社 × 0.8億円 = 400億円が市場規模の目安となります。
顧客数・単価・購入頻度から算出する
消費者(需要)側から市場規模を求める方法です。特定の業界の商品・サービスを購入する消費者の動向がわかる場合はこちらの算出方法を使いましょう。
計算式は以下のとおりです。
顧客数 × 顧客単価 × 購入頻度 = 市場規模
例えば、ある業界の顧客数が800万人、顧客単価が2,000円、購入頻度が年4回の場合、市場規模は800万人 × 2,000円 × 4回 = 640億円と推計できます。
フェルミ推定を用いる
企業側や消費者側の情報から市場規模を求めることが難しい場合、フェルミ推定を利用しておおよその市場規模を算出する方法もあります。
フェルミ推定とは、限られた情報をもとに論理的に概算する手法です。
フェルミ推定で市場規模を求める際には、ターゲットとなる人口や世帯数、利用頻度、利用額、1回あたりの消費金額、販売店舗数、平均売上高などの情報を手がかりにします。
たとえば、ターゲット市場の人口が600万人で、そのうち25%が商品を年3回購入すると仮定すると、以下のように計算できます。
600万人 × 0.25 × 3回 = 450万回(購入数)
450万回 × 平均単価 = 市場規模
ただし、フェルミ推定で導き出した市場規模は概算値であり、あくまで参考程度にとどめておきましょう。
まとめ
ビジネスの成功に必要なのは情熱とロジックだと言われています。そして市場規模の数字は、ロジックの面からビジネスの成否を考える際に欠かせない情報です。
市場規模は、公的機関や民間の調査会社が出している資料から算出するだけではなく、いくつかのデータを用いて推定することも可能です。
今回ご紹介した方法を使って市場規模を正確に把握し、事業計画の策定や事業企画のプレゼンテーションに役立ててください。